「源氏物語 若紫」(紫式部)

平安人の視点に立ってその興奮を味わいたい

「源氏物語 若紫」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

病を患った源氏は、
加持を受けに行った先で
十歳くらいの
美しい少女に出会う。
少女が藤壺の姪だということを
知った源氏は、強引に略奪し、
二条の院に連れてきて
育て始める。一方、
源氏との逢瀬の結果として、
藤壺は懐妊する…。

源氏物語第五帖「若紫」。
「帚木」「空蝉」「夕顔」と続いた三帖では、
源氏の色恋沙汰が
華々しく描かれているのですが、
この帖ではそうした部分はありません。
物語の中心となっている若紫は
わずか十歳ですから。
むしろこの帖は、これから深まりを
見せていく物語の幕開けとして、
今後の筋書きの鍵を握る女性を
描いた感があります。

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まず一人目はもちろん若紫。
藤壺の姪であるという血縁関係、
申し分ない家柄、
実母はすでに亡く
今また祖母の尼君まで失った身の上。
そうした若紫の境遇と
源氏の地位があったからこそ
未成年略奪が可能だったのです。
また、
理想の女性を探し出すのではなく、
幼いうちから
自分好みの女性に育て上げて
妻に据えるという長期計画こそ
源氏が目論んでいることなのです。
現代でいうところの
幼女趣味などではありません。

この若紫がのちに紫の上として
源氏の最愛の女性となり、
源氏物語を彩っていくのです。
この帖で特に丁寧に描かれているのは
当然です。

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二人目は藤壺です。
彼女が身ごもった源氏の子は、
後に冷泉帝となります。
父帝を裏切った苦悩と
我が子を帝として得られる権力。
それが後々まで
物語の行方を左右します。
もちろん藤壺にとっても、その
恐ろしいまでの苦悩を抱えることが、
このあとの帖に繋がってくるのです。

密会の事実はごくあっさりと
ほのめかされているだけです。
「いかがたばかりけむ、
 いとわりなくて

 見たてまつるほどさへ、
 現とはおぼえぬぞわびしきや」

(逢って強引に
 思いを遂げることはできたが、
 その間でさえ夢うつつで
 実感がなかった。)
逢瀬自体は重要ではなく、
その結果に伴う二人の「恐れ」こそ
筋書きの上での重きが
置かれてあるということなのでしょう。

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三人目は後に登場する明石の君です。
この帖の冒頭で、療養している源氏と
共の者との会話の中に、
さりげなくその存在が織り込まれ、
このあとの物語の
伏線となっているのです
(私は初読の際、見落としていました)。

ほぼ一話完結に近い形で、
源氏の色男ぶりを描いた
「帚木」「空蝉」「夕顔」に対して、
本帖はいよいよ盛り上がる物語の
序章としての機能を
果たしているのです。
源氏物語が書かれた
平安の世の読み手たちは、
大きな興奮を持って
本帖を読んだことが推察されます。
現代の私たちも平安人の視点に立って、
その興奮を味わいたいものです。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.2.22)

mochi0830さんによる写真ACからの写真

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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